カテゴリー: 番号ISO9001

  • リスクに基づく考え方

    リスクに基づく考え方

    リスクに基づく考え方を説明する前に、リスクとは何かを説明します。

    品質保証上のリスクの意味合いとしては、製品やサービスの品質に関する不確実性や悪影響(製品欠陥、法規制の不適合など)を指します(狭義の意味のリスク)。しかし、この序文の「リスクに基づく考え方」のリスクは規格書では、以下のように書かれています。

    リスクとは,不確かさの影響であり,そうした不確かさは,好ましい影響又は好ましくない影響をもち得る。リスクから生じる,好ましい方向へのかい(乖)離は,機会を提供し得るが,リスクの好ましい影響の全てが機会をもたらすとは限らない。

    「リスクに基づく考え方」でのリスクは広義の意味でのリスク(不確かさの影響)であり、好ましい影響(≒機会)と好ましくない影響(≒リスク)を含みます。少しわかりづらいかもしれませんが規格の中では、リスクには広義の意味と狭義の意味の2種類があると考えて下さい。

    リスクに基づく考え方は、プロセスアプローチやPDCAサイクルと異なり、2015年改訂で新たに追加された概念で、より徹底された予防処置を実践するために導入されました。リスクに基づく考え方は序文では以下のように書かれています。

    組織は,この規格の要求事項に適合するために,リスク及び機会への取組みを計画し,実施する必要がある。リスク及び機会の双方への取組みによって,品質マネジメントシステムの有効性の向上,改善された結果の達成,及び好ましくない影響の防止のための基礎が確立する。

    リスクに基づく考え方は、ISO要求事項の本編の中では以下の流れで整理できます。

    ■課題の明確化

    4.1 組織及びその状況の理解

    組織は,組織の目的及び戦略的な方向性に関連し,かつ,その品質マネジメントシステムの意図した結果を達成する組織の能力に影響を与える,外部及び内部の課題を明確にしなければならない。

    組織は,これらの外部及び内部の課題に関する情報を監視し,レビューしなければならない。

    4.2 利害関係者のニーズ及び期待の理解

    次の事項は,顧客要求事項及び適用される法令・規制要求事項を満たした製品及びサービスを一貫して提供する組織の能力に影響又は潜在的影響を与えるため,組織は,これらを明確にしなければならない。

    1. 品質マネジメントシステムに密接に関連する利害関係者
    2. 品質マネジメントシステムに密接に関連するそれらの利害関係者の要求事項

    組織は,これらの利害関係者及びその関連する要求事項に関する情報を監視し,レビューしなければならない。

    リスク及び機会の決定と取組み

    6.1.1 品質マネジメントシステムの計画を策定するとき,組織は,4.1に規定する課題及び4.2に規定す

    る要求事項を考慮し,次の事項のために取り組む必要があるリスク及び機会を決定しなければならない。

    6.1.2 組織は,次の事項を計画しなければならない。

    1. 上記によって決定したリスク及び機会への取組み
    2. 望ましい影響を増大する。
    3. 望ましくない影響を防止又は低減する。
    4. 改善を達成する。

    品質目標の確立

    6.2 品質目標及びそれを達成するための計画策定

    6.2.1 組織は,品質マネジメントシステムに必要な,関連する機能,階層及びプロセスにおいて,品質目標を確立しなければならない。

    1. 上記によって決定したリスク及び機会への取組み
    2. 次の事項を行う方法
      1. その取組みの品質マネジメントシステムプロセスへの統合及び実施(4.4参照)
      2. その取組みの有効性の評価

    リスク及び機会への取組みは,製品及びサービスの適合への潜在的な影響と見合ったものでなければならない。上記の計画(P)から箇条7~9のプロセスで実施され、箇条10の是正処置や継続的改善に繋がっていきます。

  • プロセスアプローチ 後編

    プロセスアプローチ 後編

    プロセスアプローチは前編でプロセスの可視化を説明してきましたが、意図した結果を達成するためには、「プロセスの可視化」とともに「PDCAサイクル」が両輪の2つ目になります。
    ISO 9001の序文0.3.2PDCAサイクルには以下の記載があります。

    PDCAサイクルは,あらゆるプロセス及び品質マネジメントシステム全体に適用できる。図2は,箇条4〜箇条10をPDCAサイクルとの関係でどのようにまとめることができるかを示したものである。

    Plan:システム及びそのプロセスの目標を設定し,顧客要求事項及び組織の方針に沿った結果を出す   ために必要な資源を用意し,リスク及び機会を特定し,かつ,それらに取り組む。

    Do:計画されたことを実行する。

    Check:方針,目標,要求事項及び計画した活動に照らして,プロセス並びにその結果としての製品及びサービスを監視し,(該当する場合には,必ず)測定し,その結果を報告する。

    Act:必要に応じて,パフォーマンスを改善するための処置をとる。

    規格書の中では、Planは箇条6、Doは箇条7・8、Checkは箇条9、Actは箇条10に記載しています。また、箇条4、5、7支援は、PDCAの全体をカバーしています。

    プロセスアプローチは、規格書にも書かれていますが、「システムとして相互に関連するプロセスを理解し,マネジメントすることは,組織が効果的かつ効率的に意図した結果を達成する上で役立つ。」ものであり、組織のパフォーマンスを向上させ顧客満足を向上させることができます。

    タートル図等でプロセスの可視化をし、リスクと機会への取り組みを行い品質目標を達成するための計画(P)を策定し運用(D)しパフォーマンス評価(C)を行い、改善(A)を行いましょう。プロセスの可視化は非常に重要で、可視化しないと悪い点が明確に見えてきませんので、改善が遅々として進みづらいです。

  • プロセスアプローチ 前編

    プロセスアプローチ 前編

    ISO 9001の序文0.3プロセスアプローチには以下の記載があります。

    プロセスアプローチは,組織の品質方針及び戦略的な方向性に従って意図した結果を達成するために,プロセス及びその相互作用を体系的に定義し,マネジメントすることに関わる。PDCAサイクル(0.3.2参照)を,機会の利用及び望ましくない結果の防止を目指すリスクに基づく考え方(0.3.3参照)に全体的な焦点を当てて用いることで,プロセス及びシステム全体をマネジメントすることができる。
    品質マネジメントシステムでプロセスアプローチを適用すると,次の事項が可能になる。

    1. 要求事項の理解及びその一貫した充足
    2. 付加価値の点からの,プロセスの検討
    3. 効果的なプロセスパフォーマンスの達成
    4. データ及び情報の評価に基づく,プロセスの改善

    プロセスアプローチはISO9001規格の中心的な概念であり、組織が意図する結果を達成するためにプロセスを体系的に定義し、その相互作用を理解し、改善する方法を提供しています。具体的は、「4.4品質マネジメントシステム及びそのプロセス」に書かれています。

    4.4.1 組織は,この規格の要求事項に従って,必要なプロセス及びそれらの相互作用を含む,品質マネジメントシステムを確立し,実施し,維持し,かつ,継続的に改善しなければならない。組織は,品質マネジメントシステムに必要なプロセス及びそれらの組織全体にわたる適用を決定しなければならない。また,次の事項を実施しなければならない。

    1. これらのプロセスに必要なインプット,及びこれらのプロセスから期待されるアウトプットを明確にする。
    2. これらのプロセスの順序及び相互作用を明確にする。
    3. これらのプロセスの効果的な運用及び管理を確実にするために必要な判断基準及び方法(監視,測定及び関連するパフォーマンス指標を含む。)を決定し,適用する。
    4. これらのプロセスに必要な資源を明確にし,及びそれが利用できることを確実にする。
    5. これらのプロセスに関する責任及び権限を割り当てる。
    6. 6.1の要求事項に従って決定したとおりにリスク及び機会に取り組む。
    7. これらのプロセスを評価し,これらのプロセスの意図した結果の達成を確実にするために必要な変更を実施する。
    8. これらのプロセス及び品質マネジメントシステムを改善する。

    a~eの5項目の要求事項は「組織のプロセスを体系的に定義」して「相互作用を理解」することであります。その概念は、序文0.3.1の「図1-単一プロセスの要素の図示」で示されていますが、よりプロセスを可視化して理解が深まるツールとして、タートル図を活用するのも良いかもしれません。以下に弊方が作成したタートル図の様式を記載しますので、参考にして下さい。

    タートル図はプロセスを可視化できるので、以下の場面で活用するのが効果的であると考えます。

    • 新人教育として、自らの職場のプロセスを理解してもらうための教育資料として使用する。
    • 新人教育として、職場研修を数か月実施した後の研修効果を把握するために新人に作成してもらう。
    • 部門の担当者に、自らのアウトプットを認識させプロセスの振り返りや成果MAX化を狙うツールとして活用する。
    • 内部監査員として、被監査部門のプロセスを理解し内部監査チェックリストを作成するために作成する。

    上記以外にも様々な改善活動の中で、有効に活用できるツールですので是非一度お試し下さい。

  • 品質マネジメントシステムの意図した結果とは

    品質マネジメントシステムの意図した結果とは

    ISO9001(2015年版)の規格には、沢山の箇所に「品質マネジメントシステムの意図した結果を達成する」という記載があります。この文言は言葉の通り品質マネジメントシステムの結果=成果を示すものであり、システムを運用する最終目的・期待値を表しています。品質マネジメントシステムを効率的・効果的に運用するためには、意図した成果が何かを理解することが組織としては重要になります。

    ISO14001(2015年版)の規格には、「1.適用範囲」に以下の記載があり、環境マネジメントシステムの意図した成果が明確に説明されています。

    この規格は,組織が,環境,組織自体及び利害関係者に価値をもたらす環境マネジメントシステムの意図した成果を達成するために役立つ。環境マネジメントシステムの意図した成果は,組織の環境方針に合して,次の事項を含む。 

    ー 環境パフォーマンスの向上

    ー 順守義務を満たすこと

    ー 環境目標の達成

    一方、ISO9001(2015年版)の規格には明確に「品質マネジメントシステム意図した成果」を説明した個所はありません。私が今までに経験した各種研修会や専門家との意見交換の中では、意図した成果とは、規格の「0.1 一般」のa)~d)であると考えています。

    a) 顧客要求事項及び適用される法令・規制要求事項を満たした製品及びサービスを一貫して提供できる。

    b) 顧客満足を向上させる機会を増やす。

    c) 組織の状況及び目標に関連したリスク及び機会に取り組む。

    d) 規定された品質マネジメントシステム要求事項への適合を実証できる。

    a)については顧客及び法令等の要求事項を満足するものであり、マスト(必須)項目となります。特に重要なのは、「b) 顧客満足を向上させる機会を増やす。」ことであります。プロセスアプローチやPDCAにより改善のサイクルを回し続けることにより、顧客満足を継続的に向上させることにあります。c)では組織が中長期及び短期に置かれたリスクや機会(チャンス)の視点を取り入れ、顧客満足を向上させ持続可能な組織活動ができるよう具体的な目標設定をし達成することであります。